以下、ネタバレ注意です。
あらすじ
幼い頃から自分の怒りをコントロールできず、一度キレると相手を半殺しにしてしまうリンディ。現在は電気ショック装置を使用して暴力衝動を抑えることで、どうにか日常生活を送っていた。そんなある日、リンディは会計士のジャスティンと恋に落ちるが、彼は何者かに殺害されてしまう。リンディは容疑者として警察に追われながらも、復讐を果たすべく犯人を追う。
2021年 アメリカ ターニャ・ウェクスラー監督作品 アマゾンプライムビデオ配信
キャスト
リンディ:ケイト・ベッキンセール
ヴィカーズ:ボビー・カナヴェイル
ネヴィン:ラバーン・コックス
マンチン:スタンリー・トゥッチ
ジャスティン:ジェイ・コートニー
他人を殺すか、自分を殺すか
リンディはちょっとしたことですぐキレる危険人物として描かれる。通常、感情的な人間というのは、自己中心的で他人の気持ちなどこれっぽっちもかえりみない特徴がある。しかし彼女はそうではない。自分が受けた侮辱だけでなく、通りすがりの赤の他人が罵倒されていてもリンディの怒りのスイッチが入る。
そういう意味ではリンディは「共感性」に満ちた人間だ。昨今は共感性羞恥という言葉をよく聞くが、彼女は共感性憤怒にかられる。義憤ともいえる。いずれにせよ彼女は高い感受性の持ち主だ。
その感受性があだとなり、彼女は普通の社会生活を営むのが難しい。突如、怒りに駆られ暴力に訴えそうになったとき電気ショックをみずから与え、感情を抑制する。
まるで19世紀の精神病院で行われていた苛酷な処置を自らに課す。結局のところ、彼女がもつ攻撃性は他人に向くか、自分に向くか、どちらかしかないのである。つまり怒り→攻撃のプロセスの中で、攻撃の矛先は「自分を含む誰か」なのである。いきつくところは殺人か自殺のいずれかだ。
女優が暴力人間を演じる効用
世の中には暴力装置が必要だ。その点、リンディは優秀である。長年用心棒の仕事をし、攻撃性の爆発力を熟知している。
通常、こういった役回りは男性が演じてきた(現実世界においてもこういった粗暴犯はおおむね男性だろう)。
ではなぜ、監督は本作にケイト・ベッキンセールを起用したのか?
表層的に見れば、女優の方が意外性があり、エンターテインメント性に富むからだろう。
しかし本質的には、過去の映画でしばしば描かれていた「女性のヒステリー」に対する、「女性の生々しい怒りと暴力」を描きたかったのではないだろうか。
前者のヒステリーはストーリーに混乱をもたらし、観客(たいてい男性が想定される)をイラつかせる効果をもつ。半面、ジョルトの怒りと攻撃性はストーリーに進展をもたらす。彼女が警察にさきがけて手がかりを見つけ、真相に近づいていくのはひとえに愛するものを失った怒りによるものだ。
怒りの効用によって物事を為す。怒りは肉体的・精神的能力の源なのだ。
このような女性ヒーロー像を女性監督がてがけたことに注目してほしい。