【徹底映画考察】ワイルド・スピード/ファイヤーブースト【なぜホームパーティーなのか?】

映画考察

脳筋爆発アクションムービーとして名高いワイスピだが、わたしたちにある価値観を思い出させてくれる。そんな目線で本作を語ってみよう。

あらすじ

ドミニクは妻レティと息子ブライアンと平穏な暮らしを送っていた。ある日、彼らが昔倒した麻薬王レイエスの息子ダンテが現れる。12年間復讐心を燃やし続けていたダンテの陰謀で、ドミニクと家族は引き裂かれ、散り散りになってしまう。

キャスト

  • ドミニク・トレット:ヴィン・ディーゼル
  • ダンテ・レイエス:ジェイソン・モモア
  • レティ・オルティス:ミシェル・ロドリゲス
  • ローマン・ピアース:タイリース・ギブソン
  • テズ・パーカー:クリス・“リュダクリス”・ブリッジス
  • ジェイコブ・トレット:ジョン・シナ
  • ミア・トレット:ジョーダナ・ブリュースター
  • ラムジー:ナタリー・エマニュエル
  • ハン・ルー:サン・カン
  • ブライアン/リトル・B:レオ・アベロ・ペリー
  • テス:ブリー・ラーソン
  • エージェント・エイムス:アラン・リッチソン
  • エリック・リーズナー / リトル・ノーバディ:スコット・イーストウッド
  • イザベル・ネベス:ダニエラ・メルシオール
  • マグダレーン・“クイーニー”・ショウ:ヘレン・ミレン
  • サイファー:シャーリーズ・セロン

なぜホームパーティーを描くのか?

近年のワイルドスピード作品に共通するのは、「ホームパーティー」シーンを描くことだ。おおむねラストシーンに配置され、ともに闘った仲間と称えあい、絆を再確認しあう。

当たり前のように描かれるが、映画史において本来こういったシーンは特殊なものだ。

ワイスピは類型化するとケイパー映画に分類される。

ケイパー映画とは、犯罪映画のサブジャンルの一つで、主人公たちによる強盗や盗みを主題とする作品(ケイパー・ストーリー)を指す。

例として、オーシャンズシリーズなどが挙げられる。

本来ケイパー映画では、それぞれ特殊技術をもった個人が、主に経済的利得を得るため一時的に徒党を組み、計画を遂行する、という内容だ。そこでは基本的になれ合いを排除した、プロフェッショナルでドライな関係性が築かれる。

一見するとワイスピもケイパー映画の例に漏れない。かれらは運転技術・銃器の扱い・ハッキング能力を有した個々人である。毎回、一致団結して困難なミッションに挑む。

しかし彼らは計画をやり終えた後でも関係性を意図的に継続する。本作ファイヤーブーストが強調するのは「ファミリー」の大切さだ。疑似家族が形成され、その構成員がそれぞれの才能を発揮し、計画を成し遂げる。その点で従来のケイパーものとは一線を画する。

ファミリーの結束を再度確認するのがホームパーティーだ。それは仕事を成し遂げた後、または本作のように危機に見舞われる前に意図的に挿入される。

逆説的な言い方をすると、それは彼らの結束の弱さを示唆する。つまりお互いに確認しなければ不安なのだ。

本作では敵の謀略によってファミリーがばらばらに引き離される。彼らのうんめいはどうなるのだろうか。

ワイスピとゴッドファーザー

ファミリーの価値を重視するワイスピはゴッドファーザー化するのか?

答えはおそらく否だろう。彼らの関係性はマフィア結社に描かれる血の連帯ほど強くない。いわばゴッドファーザーと既存ケイパー映画の中間に位置する。ゆるやかで有機的につながるが、本質的に置き換え可能な関係性だ。

ワイスピとネット社会

なぜ製作陣はこのような仲間関係を描くのか?

映画を含む芸術作品は、本来的に作り手側の願望、つまりこうあってほしいという願いが込められているものだ。

映画を観ることはもともと、家族や親しい人たちと映画館に出向き、そこでほかの観客としばらくの間同じ時間と空間を共有するものであった。そのスタイルが変わって久しい。レンタルビデオの普及で家庭での視聴がメインとなった。コロナ禍でネット配信が支配的になり、いまやその趨勢はとどめられない。

パソコンのモニターの前でひとりで観る人。そのひとりひとりに在りし日の家族像を提示するのがワイスピなのだ。それはネット社会に埋もれていく価値観の再提示でもある。

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