【徹底映画考察】ラム・ダイアリー【プエルトリコのお国事情を知る/青年の成長譚として解説】

映画考察

以下、ネタバレ注意です。

あらすじ

作家志望のポール・ケンプはニューヨークから流れ着き、プエルトリコのアメリカ系新聞社に入社した。 ある日、アメリカ人実業家のサンダーソンに声をかけられ、家に招かれることに。そこで彼の婚約者シュノーに再会し、彼女の魅力に引き込まれて行く。サンダーソンから仕事の依頼をされたが、うさん臭い話なので一旦は断った。しかし酒に酔ったことがきっかけで現地民とトラブルを起こしたポールは逮捕されてしまう。裁判所にサンダーソンが現れ保釈金を出したことで、釈放される。借りを返すためにサンダーソンの依頼を受けるが、その内実はリゾート開発詐欺で住民たちを騙す記事を書かせるものだった。

2011年 アメリカ ブルース・ロビンソン監督作品

キャスト

  • ポール・ケンプ:ジョニー・デップ
  • シュノー:アンバー・ハード
  • ハル・サンダーソン:アーロン・エッカート
  • ボブ・サーラ:マイケル・リスポリ
  • ロッターマン:リチャード・ジェンキンス
  • モバーグ:ジョヴァンニ・リビシ
  • セグーラ:アマウリー・ノラスコ
  • ジンバーガー:ビル・スミトロヴィッチ

不可思議な国プエルトリコ

この映画を理解するためにはまずプエルトリコの特殊な国事情を理解しなければならない。

同国はもともとスペインの植民地であったが、1898年の米西戦争後、スペインからアメリカに割譲され、以降アメリカ合衆国の領土となる。

プエルトリコの住民はアメリカ国籍をもつ反面、大統領選の投票権はもたない。

つまり「アメリカの裏庭」と称される中米の中でも、とりわけプエルトリコはアメリカと政治的経済的に密接な関係下にある。

本作はそんな準アメリカ国内とも呼べるプエルトリコの首都サンフアンで渦巻く陰謀とどこか堕落したジャーナリストたちの姿を描く。

「2流」ジャーナリストたちの奮闘記

現地の新聞社サンフアン・スターは資金不足に苦しみ、廃刊の噂さえある。そこに集う記者たちは気の抜けた面々ばかりで、新人のポールは判で押したようなボウリング場オープンの記事を書かせられる。

アメリカ人向けの新聞である以上、むろんアメリカ人の関心のある記事が載るわけだが、それは新しいホテルやボウリング場、カジノといった調子で、報道というよりもむしろ宣伝広告に近い。

結局、多くのアメリカ人にとってプエルトリコは休暇と娯楽を楽しむ観光地であって、同地の政治や経済などにはこれっぽっちも関心がない。

その空気は新聞社内にも蔓延している。彼らはアメリカ本国の新聞社では到底やっていけない人たちで、いわば2流地に都落ちしているのである。

この状況を示唆するセリフも登場する。闘鶏のシーンだ。

「地元では負け知らずの雄鶏「モンスター」も闘鶏のレベルが高いノースビーチでは役に立たない」というセリフはまさしく、アメリカでは何者でもない記者たちのことを言い当てる。

挫折から立ち上がる青年像

他方、プエルトリコを食い物にする実業家たち。不動産デベロッパーであるサンダーソンは言ってしまえば20世紀版の山師だ。彼は銀行家と米軍関係者、現地の協力者と結託し、島を乗っ取りリゾートを建設する計画を企む。

19世紀にアメリカ国内のフロンティアが消滅したのち、アメリカ人の支配欲は中米に向かう。そもそも米西戦争自体が政治的に仕組まれたスキームだ(開戦の口実となった戦艦メイン号の爆沈はアメリカの自作自演説がある)。実際に支配は中米にとどまらず、CIAを駆使し南米国家のいくつかを親米政権に宗旨替えすることに成功したのは、歴史的に見て明らかだ。

楽園のようなビーチに隠された現地の貧困、好き放題するアメリカ資本を目の当たりしたポールはジャーナリスト精神に目覚め、自分たちの手で新聞を発行しようと画策する。しかし資金を用意するも、あと一歩のところで間に合わず計画は頓挫する。

現実を見せつけられたポールは挫折する青年だ。だが作家になるためニューヨークに戻り、のちに大成する。本作は20世紀を代表するジャーナリスト ハンター・S・トンプソンの自伝小説を原作とする。

帰る場所がある者は幸運だ。エキセントリックな男として描かれるモバーグは祖国喪失者に等しい。彼はもともとスター社の宗教・政治記事担当の特約記者だったが、ここプエルトリコではそんなテーマは誰も欲しないと悟ってしまったのだろう。それゆえ彼はラム酒に溺れ、目を濁らせ虚空を見つめている。

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