以下、ネタバレ注意です。
あらすじ
ボストン警察の爆弾処理隊員ジミー・ダヴは、MIT爆弾事件の解決で一躍マスコミの注目を浴び、ヒーローになる。しかし、その後ダヴの同僚を狙った犯行がつぎつぎと発生する。警察内部でも不信の目を浴びる中、ダヴの妻子までもが命の危機に瀕する。犯人はかつてのIRAの仲間ギャリティであった。
キャスト
- ジミー・ダヴ:ジェフ・ブリッジス
- ライアン・ギャリティ:トミー・リー・ジョーンズ
- ケイト:スージー・エイミス
- マックス・オバノン:ロイド・ブリッジス
- アントニー・フランクリン:フォレスト・ウィテカー
- リジー:ステフィ・ラインバーグ
殺す側と救う側
20世紀になってもアメリカは多くの人にとって新天地だ。ここでは故国のしがらみを捨て、新しい自分に生まれ変われる。それはアメリカの神話である。
IRAの闘士だったジミー・ダヴは爆弾テロの失敗の責を負い、逃げるようにアメリカにやってきた。彼は新しい名前とボストン警察の爆弾処理担当という新しい職を手に入れた。皮肉なことに、爆弾で殺す側から爆弾から命を救う側に宗旨替えをした。
一方、同じIRAグループにいたギャリティは何年も復讐を誓っていた。テロに失敗し、妹まで失った彼は刑務所脱獄ののち、奇しくもジミーと同じようにアメリカに流れ着く。そして復讐を果たすべく、妄執にとらわれたかのようにジミーを追い詰める。
これはアメリカに渡った元IRA闘士の対決を描く。爆弾で殺す側/爆弾を解除する側、かつては師弟関係にあったふたりが今や別の立場で相まみえる。
アメリカで繰り広げられるアイルランド紛争の続き
アメリカとアイルランドとの関係は歴史的に見て相当に根深い。19世紀半ば、アイルランドでジャガイモ飢饉が発生すると、大量の飢えた移民がアメリカに移住する。当時のアメリカ移民の半数がアイルランド系であった。
特筆すべきは、伝統的にアメリカ東海岸都市の警察官(と消防士)は、アイルランド系が代々多く占めている点だ。したがって、ギャリティが警察関係者を爆弾で殺害するというのはもはや内ゲバの様相を呈する(とはいえギャリックを突き動かす動機はもはやアイルランド独立ではなく、単なる私怨であるが)。
またアイルランド紛争期には、アメリカ国内のアイリッシュマフィアがIRAに対して武器支援を行っていた。これはジョニー・デップが伝説的な犯罪組織のボス ホワイティ・バルジャーを演じた「ブラック・スキャンダル」(2015年)で描かれる。また通俗的なアクション映画だが、ブリー・ラーソン主演の「フリー・ファイヤー」(2017年)はIRA銃器密売人たちの仁義なき銃撃戦を繰り広げる。
ギャリックにとっては、のうのうと生きるすべてのアイルランド系アメリカ人はみな裏切り者に映るのだろう。IRAの活動が下火になる中、彼の闘争はジミーへの復讐という形に転化しながら続く。
愛憎渦巻く爆弾闘争
ジミーの叔父マックスに爆弾トラップを仕掛け、最終的に解除できないと考えたマックスが自爆するシーンは印象的だ。これは従前のシーン(ブロンズ像)に映っていたように、聖セバスティアヌスの殉教エピソードになぞらえられる。
セバスティアヌスは当時禁止されていたキリスト教を布教した罪で、ローマ皇帝に処刑される。ローマ帝国の裏切り者として何度も矢を射かけられる。カトリックではセバスティアヌスは聖人に列せられている。
祖国アイルランドを(なにもしないという不作為の形で)裏切ったマックスを殺すシーン。爆発とともにギャリティは涙を流し、そして微笑む。これは実は同郷の者を手にかけた悲しみではない(ギャリティは民間人の被害など単なるコラテラル・ダメージだと考えている)。手塩にかけて育てた弟子のジミーと命を懸けた真剣勝負ができなかった悔しさである。彼はわざわざすぐ隣の特等席から勝負に挑んでいたののだ。そして最後に見せた不敵な笑みは、次の勝負が楽しみで待ちきれない心象を表現している。
結局、爆弾に関してギャリティはジミーのことを高く買っているのだ。ギャリティは己の英知をすべて盛り込んだ爆弾を仕掛ける。それに対しジミーは全身全霊をもって解除しようとする。これは師匠と弟子の絶え間ないソクラテスメソッドなのだ。極端な言い方をすれば、憎しみを超えた愛を感じずにはいられない。