【徹底映画考察】ソフト/クワイエット【人種差別の皮をかぶったマウント合戦/暗黒のシスターフッド物語】

映画考察

以下、ネタバレ注意です。

あらすじ

幼稚園教諭のエミリーは「アーリア人団結をめざす娘たち」という白人至上主義グループを結成。教会の談話室で開いた初めての会合には、エミリーと同じように多文化主義や多様性を重んじる現代の風潮に不満を抱え、有色人種や移民を毛嫌いする女性達、アン、元受刑者のレスリー、食料品店オーナーのキム、その従業員のマージョリーが集まる。日頃の鬱憤や過激な思想を共有して盛り上がった彼女たちはアンを除き2次会のためエミリーの家へ向かうことになったが、その途中立ち寄ったキムの食料品店に、アジア系の姉妹がやってくる。ふとしたことから店内では激しい口論が勃発。腹を立てたエミリーたちは悪戯半分で姉妹の家を荒らしに行くが、それは歯止めのきかない狂気の暴走の始まりだった。

2022年 アメリカ ベス・デ・アラウージョ監督作品

キャスト

  • ステファニー・エステス:エミリー
  • オリヴィア・ルッカルディ:レスリー
  • エレノア・ピエンタ:マージョリー
  • デイナ・ミリキャン:キム
  • メリッサ・パウロ:アン
  • シシー・リー:リリー

女同士の権力闘争と内ゲバ

本作の重要な登場人物 エミリーとレスリーの変化に注目してほしい。この作品は彼女らふたりのマウントの取り合い合戦を中心に進む。その意味でヘイトクライム犯罪を題材にした、権力闘争と内ゲバの物語なのである。

幼稚園教諭のエミリーは冒頭、年端もいかない男の子に移民の掃除婦に差別的言動をするよう仕向ける。自身の歪んだ思想の刷り込み、マインドコントロールだ。

彼女はつねに人を操り、他人より優位に立とうとしているのだろう。そしてその後の「アーリア人団結~」グループの集まりでも、彼女の策略はいかんなく発揮されるはずだった。カギ十字をデコレーションしたパイを見せればみんな驚くだろう。自分は他のメンバーより少し過激だ。それがかえって、彼女が下に見ているメンバーとの違いを際立たせる。でも行き過ぎではない。ほどよく過激だが(言葉の意味的にはおかしいと思う)、まだ自分のコントロール下にあり、なんとでもなる。しかしながら彼女の見通しは急転直下、思いがけない方向に・・・

エミリーはレスリーと知り合う。彼女はエミリーにとって「宿敵」となる。その運命はレスリーが着ているジャケットのバックロゴにすでに示唆されている。ドイツ語で書かれた「憎むことが大好き」。協会から追い出され、駐車場まで歩いていくシーン、この言葉が画面に映りこむ。その時点でレスリーの異常性・狂暴性が高らかに宣言される。

前科持ちのレスリーに比べれば、しょせんエミリーなど幼稚園で子どもを相手にしている「優しい母性」に過ぎない。そんな歴然とした人間的な違いを見せつける

闇に堕ちたシスターフッド

アンを殺してしまった後、エミリーとレスリーの関係は激変する。パニックになるエミリーに対し、レスリーはイラつきながらも証拠隠滅の指示を出し、自らアンを手にかける。この時点で集団のリーダーはレスリーである。極限状況にあっては悪だくみと腕力に優るものが支配する、そんな野蛮状況のヒエラルキーを体現する。

パニックで正気を失いながら、ほうほうのていでアンの遺体を湖に捨てに行くふたりの姿は、お互いを罵りあいながらもひとつの目的に突き進むバディムービーのような様相を呈する。「血と汚辱にまみれたシスターフッド」とでもいうべきか。

彼女たちの血まみれの姿に対して、本作のタイトル「ソフト/クワイエット」。なんと皮肉だろうか。

ある集団において権力争いが始まると必ず過激さを争うことになる。これは連合赤軍の発展と自滅の過程とも重なり合う。この傾向はなにも人種差別やヘイトクライムだけに見られるものではない。わたしたちの日常生活の単位である、家族・職場・友達付き合い、すべてに当てはまる。

タイトルとURLをコピーしました