【徹底映画考察】サマリタン【ポストイラク戦争を描く異色のヒーロー映画を解説】

映画考察

以下、ネタバレ注意です

あらすじ

グラニット・シティの双子のスーパーヒーローである善のサマリタンと悪のネメシスは対立していた。二人は発電所の最終決戦で爆発に巻き込まれ、ともに死んだと思われている。だが人々はサマリタンがまだ生きていると信じる。25年後、少年サムは母ティファニーと貧しい暮らしをしていた。ある日、ギャングに囲まれていたサムを隣人のジョーが助ける。彼の人間離れした怪力を目撃したジョーは、やはりサマリタンは生きていたと確信する。

2022年 アメリカ ジュリアス・エイヴァリー監督作品 アマゾンプライムビデオ配信

キャスト

ジョー・スミス:シルヴェスター・スタローン
サム・クレアリー:ジャヴォン・“ワナ”・ウォルトン
アルバート・キャスラー:マーティン・スター
レザ :モイセス・アリアス
ティファニー・クレアリー:ダーシャ・ポランコ
サイラス:ピルウ・アスベック

イラク帰還兵を描く異色のスーパーヒーロー映画

スタローンが年老い零落した元スーパーヒーローを演じる本作は、近年流行りの「なめてた相手が実は殺人マシンでした」(別名ナーメテーター)映画のひとつと言える。

しかし、「錯綜する善と悪」、「25年」、「落ちぶれた英雄」という要素をかんがみると、これはポストイラク戦争の社会状況を表現した作品と読み解ける。

2003年、アメリカを中心とした有志連合は、イラクが保有するとされた大量破壊兵器を武装解除するために同地に軍事侵攻した。軍備に優るアメリカ軍は各地要衝を陥落させ、フセイン政権を打倒する。しかし今や誰もが知るように、イラクに大量破壊兵器はなく、そもそも開戦の大義など存在しなかった。その後、民兵各派が群雄割拠し、イラク国内は何年にもわたる戦火と混乱を極める。

開戦当初、アメリカ兵は解放者としてイラク国内に侵入した。HBOドラマ「ジェネレーション・キル」は海兵隊部隊に従軍取材したローリングストーン誌記者の実体験を基にしたものだ。そこでは意気揚々で派兵された兵士たちの感情の変化が描かれる。戦意が低く続々と降伏するイラク兵。民間人に紛れ、神出鬼没の攻撃を仕掛ける民兵。「コラテラルダメージ」として死傷する大量の一般市民。

ついに、自分たちはイラクを救うのではなく、破壊するためにここにやって来たのではないかと考え始める。また大量破壊兵器が見つからないため、アメリカ国内でも戦争に懐疑的な見方が強まっていく。帰還兵は母国に帰っても白眼視される恐怖に怯える。まるで赤ん坊殺しと糾弾されたベトナム帰還兵と同じように。

本作のサマリタンとネメシスはまさに当時のアメリカとイラクの写し絵だ。当初は善と悪、明確な線引きがされていたが、いつしかその境界はあいまいとなり、見る者によっては入れ替わりさえする。そして最終的に両者とも表舞台から姿を消す。まさに現在のわれわれがイラク戦争など遠い記憶として忘れ去っていくように。

「ランボー」でPTSDに苦しむベトナム帰還兵を演じたスタローンを主役に起用するとは、たいへん示唆的である。

キリスト者を描く

イラク帰還兵はかつてない割合で、後遺症・PTSD・貧困・ホームレス化に苦しんだ。自殺率は他の戦争経験者と比べても異常なほど高い。

スタローンは過去に苦しむ帰還兵のメタファーである。底辺労働に甘んじ、孤独な暮らしをする。唯一の楽しみはガラクタの修理だ。それは戦争で他国を破壊尽くしたことを悔いているかのようだ。

しかし街が無秩序の状態になり、暴力が支配するようになってから、世捨て人ジョーは仲良くなったサムを救うため再び戦いに身を投じる。

そこからは元軍人が活躍するヴィジランテムービーの定型通りだ。

サイラスがネメシスのハンマーを手に民衆に決起を促すシーン。レッカー車の十字型のクレーンをハンマーで叩き壊す。これは十字架を壊す反キリスト者のイメージだ。またサマリタンが聖書の善きサマリア人のたとえに由来するのに対して、ヴィアン ネメシスは異教であるギリシャ神話の女神の名だ。

その点でもやはり、サマリタンは現代の十字軍と呼ばれたアメリカ兵士を表している。

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