【徹底映画考察】「TENET テネット」で考える戦争観の変遷

映画考察

以下、ネタバレ注意です。

キャスト

  • 名もなき男:ジョン・デヴィッド・ワシントン
  • ニール:ロバート・パティンソン
  • キャサリン“キャット”・バートン:エリザベス・デビッキ
  • アンドレイ・セイター:ケネス・ブラナー

2020年 アメリカ クリストファー・ノーラン監督作品

未来人との戦争を想像する

ロシアによるウクライナ侵攻から2年がたつ。

本作テネットを観ると、ロシアやウクライナ、東欧諸国の要素が明示的にも暗示的にも描写される。たとえば、冒頭のキーウ(キエフ)のオペラ劇場襲撃シークエンスは、2002年のモスクワ劇場占拠事件をモチーフにしている。またテロ鎮圧を偽装してプルトニウムを奪ったCIA協力者を殺害する目論見は、ウクライナ侵攻以降、よく耳にするようになった「偽旗作戦」の一形態である。

未来人類に協力し、無尽のカネと権力を手にしたセイタ―は独占欲の権化だ。余命わずかな男が狂ったように第三次世界大戦の火ぶたを落す姿は、血液のガンを患っているとの疑いのあるプーチン大統領の姿に重なる。まもなく命が終わることを悟ったセイタ―は現在の人類もろとも心中しようとするが、それは核兵器使用のカードをちらつかせるプーチンにも似たところがある。

しかしながらテネットが描く第三次世界大戦とウクライナ侵攻はまったく様相が異なる。

ウクライナ侵攻含む従来の戦争が空間(=領土)を拡大する目的だったのに対し、テネットの描く戦争は時空(時間と空間)を支配する戦いだ。

作中では明言されていないが、おそらく何世代か後の未来は度重なる環境破壊で人類滅亡の瀬戸際なのだろう。自分たちに残された時間が残りわずかだと知った未来人は、時間を逆行させ、生存圏確保をもくろむ。こんな背景が想像される。

未来人類はどのような統治機構で生きているのだろうか。作中、ニールは未来人は「祖父殺しのパラドックス」を気にしないと発言していた。これは科学的に高い見識をもっているがゆえにパラドックスは起こりえないと結論を下したのか。それとも窮地に立たされたヤケクソ精神でなりふり構わないだけなのか。後者だとすれば未来はとんでもない反知性主義のディストピアである。おそらくまともな政府機関など存在しないだろう。少数の狂信的集団が逆行計画を進めているのか。それともポピュリズム政権が生存者の歓心を買う一発逆転作戦なのか・・・想像してもしきれないほど思考の余白がある。

ただ一つ言えるのは、未来世界で逆行作戦を是としている人たちは手段を択ばない覚悟なのだろう。それは自分の先祖を否定することと同義であり、ひいては自分を殺すことだからだ(パラドックスうんぬんではなく)。環境破壊は過去人類の罪業ともいえるが、必ずしも過去人類に恨みがあるわけではないのだろう。つまり人間は自分が生き残るためならなんだってするものだ。

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